専門医に聞く多嚢胞性卵巣症候群:妊娠前、妊活期、出産後に気を付ける事とは
既に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断を受けている人向けのお話です。心の片隅で不安には思っているが、なかなか病院に行くチャンスがない。そういった人は多いのではないでしょうか。
服用する薬のことや症状の推移など、気を付けなければいけないことはいろいろとありますが、まずは妊娠前・妊活中・出産後とライフステージごとに押えておくべきポイントをまとめました。
妊娠前に気を付ける事
生理が久しぶりに来る時は、量が多くて辛い、と感じることはありませんか?
「生理が遅れている周期の時は量も多いし、生理痛も辛い」そういう経験をした人は多いのではないでしょうか。実はこれには理由があるのです。 生理のあと、体の中では、卵胞ホルモン(エストロゲン)が放出され子宮内膜(生理のもと)が作られ厚くなります。 通常であれば卵胞ホルモン(エストロゲン)がある一定量に達した段階で排卵し、その後、子宮は妊娠するための準備に入ります。 妊娠しなかった場合、通常は約2週間で生理になるのですが、生理が来ない状態というのは、卵胞ホルモン(エストロゲン)が出つづけるために体が妊娠に向けてせっせと子宮内膜を作り続けている状態。 排卵がおこらず通常よりも子宮内膜が厚くなる=生理の量が多くなる、という事が起こるのです。そしてそれに伴い生理痛がいつもより強くなると感じる人もいるでしょう。
いつ始まるかわからない生理に、ナプキンを敷いてビクビク。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の人は生理が不順になりがち。 もう生理予定日から10日以上経過している。仕事の都合で簡単にトイレに行くことは出来ないし、何日もナプキンを敷いて備えているけど中々生理が来ない。お尻もかぶれてきてしまった、、、。誰しもそんな経験したこと、ありますよね。 普段は生理が順調に来ている場合には心配はいらないのですが、毎回生理が遅れたり、2か月以上あいたりする場合には、注意が必要です。 生理が来ない事で困ることはない、と感じている人もいるかもしれませんが、実は「生理がこないこと」にあなたの生活は振り回されているのではないでしょうか。
ピルの服用で生理に振り回されることはなくなります。
ピルを使用した場合、28日を1クールとして薬を服用(薬によって1クールの日数は違いがあります)→数日後に生理、という周期を定期的に繰り返すようになります。 使い続けていくうちに、自分の生理がくるタイミングがわかるようになってくるので、おおよそのタイミングが予測できるようになってきますし、ある日突然大量の出血と激しい生理痛、という事はなくなります。 また最近は4か月連続して生理を止める事の出来るピルも発売されています。これにより、生理の回数そのものを減らすことが可能です。
ピルのメリットを知り、ポジティブに健康と美をコントロールしよう!
なお、喫煙・高血圧等の血栓症の危険性が心配な場合には、ピルの代わりに黄体ホルモン薬を用いることができますので、担当医師と相談してください。
ピルを飲むことで、将来の妊娠に備えられる
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の卵巣は徐々に組織が線維化して固くなってきます。そうなると卵巣から排卵しにくくなるため、たとえ排卵誘発剤などを使用したとしてもきちんと排卵できなくなってきます。 将来の妊娠を考えると、放置しないでピルなどの治療を早めに考えたほうがよいでしょう。仮に不妊治療をすることになっても、きちんと薬に反応しやすい体を保つことが出来、よりスムーズに不妊治療を行う事が出来ます。
妊活の時に気をつけなければならないことは?
自然妊娠希望の場合でも、排卵タイミングは病院でチェックするのがお勧め
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の人が妊活の時に注意しなければならないのは排卵のタイミング。 通常の人はだいたい生理開始日から2週間前後で排卵が来ますが、いつ排卵をするのか見極めが難しい為、折角の努力が無駄になってしまう事も。日ごろから基礎体温をつけたり、排卵検査薬を使って排卵のタイミングを逃さないようにしましょう。
病院で排卵のタイミングを見てもらう事もできるので、その場合にはより正確にタイミングを見計らう事が出来ます。 ただ、そもそもきちんと排卵が出来ているのか確認する為にも、妊活をする前に一度、医師に相談に行ってから始めることをお勧めします。
不妊治療を行う場合には、体外受精の方が安心な場合も
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の人が不妊治療を行う上で注意しなければならないのが双子や三つ子などの多胎の可能性です。 不妊治療では排卵誘発剤を利用して排卵を促すのですが、その場合には複数の卵を排卵する事になります。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の人は排卵誘発剤でより多くの卵を排卵しやすい傾向にあり、タイミング法や人工授精では同時に複数の卵胞に受精し、多胎になる可能性があります。
多胎になった場合には授かる喜びの反面、赤ちゃんにリスクも
胎児の発達遅延・異常や早産(早く産まれすぎると赤ちゃんに障害が発生するケースもあります)のリスクが発生します。 このように多胎は赤ちゃんが産まれた後の成長や健康にも影響する可能性があるため、現在の不妊治療は、極力多胎にならないよう配慮を重ねた治療になっています。 そのため、排卵誘発剤を利用してタイミング法や人工授精での妊娠を希望する場合には、あまり多くの排卵をしすぎないように、薬の量を調節しながら卵胞発育の推移を注意深く見守っていく必要があります。 またこれらのリスクを防ぐ為にも、確実に一つの卵子で妊娠できるよう、早めに体外受精への移行を勧められるケースもあります。不妊治療をするにあたり、事前に医師と治療方針を相談してから始めると安心です。
出産後に気を付けることは?
出産後にもピルを飲んでガン化を予防
生理が起きないことで、長期間に渡って卵胞ホルモン(エストロゲン)が出続ける事は体に悪影響を及ぼします。 卵胞ホルモン(エストロゲン)が子宮体がんの発生を誘引する可能性があることがわかっており、実際、30歳以下の若年性体癌の60%に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が認められたとの報告があります。 ピルの服用は子宮体がんのリスクを下げることがわかっています。
また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に限らず、1,2年に1回は子宮頸がんの検査を受けるようにしましょう。
監修医師紹介
東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科 講師 廣田泰先生
子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症などの良性疾患~不妊症までを幅広く治療する女性ホルモンの専門家。同大学で着床外来、子宮腺筋症外来を立ち上げ。豊富なデータを基に、温厚な語り口でゆっくりと丁寧に患者に説明をするスタイルが特徴。
タグ: 妊活&不妊