子宮腺筋症の専門医に聞く、最新の治療情報② 有効な治療法とは?
前回の記事では、まだ解明されていない点も多い子宮腺筋症に関する最新データをお伝えしました。今回は妊娠や出産、QOLにも大きな影響を及ぼす子宮腺筋症の治療方法やその実績についてお伝えしていきます。
ガイドライン、子宮摘出が唯一の完治方法
子宮腺筋症はまだ不明な点が多く、現在でも原因の解明されていない病気です。その為、現在の完治方法は子宮摘出だけとなっています。基本的には40歳以上で妊娠希望がない場合には子宮摘出を勧められるケースが一般的。子宮摘出のメリットは腺筋症の症状から解放されることが挙げられます。ホルモン療法が不要になるケースがほとんどなので、ホルモン療法の副作用を心配する必要がなくなります。一方でデメリットは、子宮を摘出するため妊娠できなくなることが挙げられます。
子宮摘出を勧められ、すぐに決断しなければならないと焦ってパニックになり、心から納得をしていない状態で摘出をしてしまう方がとても多いのが現状です。しかし、全く焦る必要はありません。次の病院の予約までに結論を出す必要もありません。決断しきれない事を伝えて、しっかりと医師と不安な点についてコミュニケーションをとる事を心がけましょう。セカンドオピニオンもいいですし、子宮摘出ではなく薬物療法に挑戦することも出来ます。大切なのは時間をかけて自分自身で納得して治療方法を決める事です。
子宮腺筋症の病変の進行を抑える治療
実は、病変の進行を抑えることが立証されている治療法は現在のところありません。「ではホルモン治療は何のためにするの?」と考える人も多いのではないでしょうか。詳しくは下記で説明したいと思います。
痛みや月経過多などの症状を和らげるのがホルモン治療
これまで子宮腺筋症というと、ホルモン治療の提案をされた人は多いのではないでしょうか。しかし上記に記した通り、現段階では進行を抑えるデータが確認できている治療薬はありません。これは子宮腺筋症の研究や調査が行われるようになったのがつい最近であることがその理由です。
では、なぜ医師はホルモン治療を勧めるのでしょうか。
腺筋症治療で主に使われるGnRHアゴニスト、低用量ピル、ディナゲスト、ミレーナなどのホルモン療法は、薬の作用によって子宮内膜を薄くし、生理の量を少なくします。それにより、月経量と大きく関係のある生理痛も軽減されます。その為、病変の増殖を抑えることは必ずしも出来なくても、腺筋症に伴う生理痛や月経過多などは改善効果が期待できるのです。
また多くの医師はこれまでのデータや経験から、ホルモン治療は、病変の増殖を食い止める働きもあるかもしれないと考えています。
まだまだ子宮腺筋症治療の治療薬は発達途上の段階ですが、放っておくと痛みがどんどん強くなること、最終的には子宮摘出に至るケースも多いことから、少しでも治療の可能性のあるホルモン治療を行う事は、将来の体の健康の為にもとても重要な事なのです。
現時点でのホルモン治療については下記の様な状況になっています。
ディナゲスト・・・内服薬。腺筋症の疼痛に効果がある事が立証され、子宮腺筋症の疼痛に対する保険適用の薬となっています。腺筋症の病状進行を抑える効果は現時点で不明ですが、一部の腺筋症はディナゲストで小さくなるのでディナゲストによる進行予防が可能かもしれないと考えられています 。不正出血の副作用がかなりの確率で発生することがわかっていますが、通常出血の頻度は薬を飲み続ける事で徐々に減ってくるので、我慢できる程度であれば長期使用が可能な薬です。但し、子宮が明らかに巨大化している場合には、大量出血のリスクがある為、副作用については医師と相談して進めていきましょう。
ミレーナ・・・薬成分を含んでいる器具を子宮内に挿入する治療。生理痛と月経過多の両方に有効で、病院で医師に子宮内に挿入してもらいます。(挿入時には通常麻酔は不要)。デメリットは不正出血と挿入した器具が抜けてしまう事が挙げられます。(但し不正出血はミレーナ挿入後徐々に減少)。挿入した器具は5年間入れ続けることが出来るのでうまくいけば長期使用が可能です。また、落ち着いてくると通院が6~12か月に1回になる為(他のホルモン治療の場合には3か月に1回程度)、通院の負担が最も少ない治療法です。
低用量ピル・・・内服薬。腺筋症による月経痛に有効な治療として知られています。最近4か月を上限として連続服用が可能なピルが商品化されており、これを利用した場合には生理の回数を減らすことができるので、生理の症状で悩む頻度が圧倒的に軽減する事が出来ます。他のホルモン薬と同様に副作用があり、ピルの場合には特に血栓症への注意が必要です。
GnRHアゴニスト ・・・偽閉経療法と呼ばれている、生理を止める治療です。点鼻薬と月1回の注射薬の2種類があります。6か月を超えて連続投与が出来ないため一時的にしか使う事が出来ないのですが、効果が最も強く完全に生理をとめ、一時的に症状を落ち着かせることが出来るのが大きな特徴。子宮腺筋症の症状が著しくひどい場合に、一時的に使用し心身の安定を図る狙いで使用されることが多いです。また、不妊治療に際して腺筋症の痛みに耐えられずに治療が進まない場合に、一時的に症状を改善させたのち不妊治療を再開する事で、不妊治療の負担を軽減出来る場合があります。(一時的に病変は縮小しますが、治療をやめると病変は元の状態に戻ります。)。更年期症状や骨量減少などの副作用があります。
これらの薬には上記で説明した以外にもそれぞれ一定の副作用があるので、しっかりと副作用を確認して服用することが大切です。但し、副作用は長くても半年~1年かけて落ち着いてくるケースが大半です。
医師から処方された薬が合わずに精神的に落ち込む人も多いですが、
1)副作用と中長期的に付き合う事
2)薬が合わなければ別の薬を試せばいい、という気楽な気持ちを持つ事
この2点に留意しながら、あまり一人で抱え込まずに病気と付き合っていくことが必要です。
副作用以外でも、内服薬は毎日薬を飲むのが負担だ、という人にはミレーナが良いかもしれませんし、ミレーナ挿入時の痛みが不安な人にはまずは内服薬で試してみるのもいいかもしれません。
なお薬物治療の中心はホルモン療法ですが、漢方薬の治療で症状や副作用の軽減・緩和が可能な場合もあります 。
医師の勧めた薬だけを信じて使い続けると、精神的にもきつくなります。自分で調べて、〇〇の理由でこの薬を使いたい、と医師とキャッチボールを行うと医師も患者を理解し、様々な提案ができるようになります。大切なのは医師の勧めに従う事ではなく、あなたが治療を継続して少しでも健康を維持する事です。
最新治療 子宮腺筋症の核出術
これまで手術というと子宮摘出のみでしたが、子宮を残したい、という女性の為に子宮の中の腺筋症部分だけを部分的に摘出する核出手術(病巣除去術)が、先進医療として提供されています。(2018年3月現在、先進医療で手術を受けられる施設は霞ヶ浦医療センター、東京大学医学部附属病院、聖マリアンナ医科大学病院、秋田大学医学部附属病院の4施設のみ)
腺筋症の患部そのものを切る取る為、治療効果は非常に大きく、東大病院の院内調査によると手術を受けた患者の痛みレベルは術前平均8が1年後には1へ、大きく改善しています。また、月経量やQOLにも大きな改善が見られ、治療という観点では大きな成績を残しています。
また、東大病院の調査では、一般的な子宮腺筋症患者においては体外受精・胚移植の着床率低下・流産率の上昇(特に後期流産に関しては通常妊婦の12倍のリスク)、早産の増加(通常妊婦の3倍のリスク)が認められることが分かっています。核出手術によるこれらのリスクの改善効果は現時点では明らかになっておらず今後の調査が必要ですが、手術による子宮環境の改善が妊娠に良い影響を及ぼすことを期待したいです。
しかし一方で子宮筋層にメスを入れることになる為、出産は必ず帝王切開になります。また子宮筋層にメスを入れる他手術(子宮筋腫や帝王切開)に比べて、子宮破裂や癒着胎盤のリスク が高いと考えられています。その為、出産時には設備や体制の整った病院での出産が必須となります。妊娠出産に関しては病巣除去術を受ける場合、受けない場合、どちらにもメリットデメリットがある事をよく考慮する必要があります。
子宮腺筋症は、手術をしても3-10%が再発をします。その為もし妊娠出産を希望する場合には、術後もしっかりとホルモン薬で管理していきながら、妊娠許可が下りた後は(術後3か月~1年は術後回復前の為、妊娠不可となります。 )なるべく早いタイミングで妊娠をすることが望ましいとされます。自分のライフプランをよく考え、医師と相談して手術を受けるタイミングを決めるようにしましょう。
監修医師紹介
東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科 講師 廣田泰先生
子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症などの良性疾患~不妊症までを幅広く治療する女性ホルモンの専門家。同大学で着床外来、子宮腺筋症外来を立ち上げ。豊富なデータを基に、温厚な語り口でゆっくりと丁寧に患者に説明をするスタイルが特徴。
タグ: 生理に関するトラブル