高校生の重い生理痛に内診は不要。娘を産婦人科に連れていくときの親の心得とは?
「おかあさん、生理痛が辛くて学校休みたい。」
もし女子中学生・女子高生の娘さんからそういわれたら、あなたはいったいどうアドバイスしますか? 軽い運動で痛みを和らげるように勧めますか? それとも体を温める?
親世代が中高生の時には、生理痛は病気ではない。軽い運動と冷えに気を付ければ治る。そう言われて育ってきた人が多いのではないでしょうか。(監修:東京大学医学部附属病院 能瀬さやか医師)
生理は病気ではない、はもう古い!? 10代の強い生理痛の62%は既に病気とのデータが
海外の調査では、強い生理痛に悩む10代の思春期女性のおなかの中をのぞくと、実に62%の女性に子宮内膜症の所見がみられたというデータが発表されています。(2018年日本産科婦人科学会学術集会で能瀬医師が発表)
これまで日本の教育現場や10代向けの雑誌では、「10代の生理痛は病気ではない。体を温めて、軽い運動をしておけば大丈夫。」というのが常識として言われてきました。
その為、学校でも家庭でも「体を温めれば治るわよ。病気ではないから。」という声掛けをするだけ、という事が殆どだったのではないでしょうか。
月経困難症や子宮内膜症は不妊との関連がある事がわかっています。今後は教育現場や家庭では「おかしいと思ったら婦人科へ連れていく」と、認識を変える必要があるかもしれません。
基本的には内診はなし。安心して産婦人科に行きましょう。
親として最も心配なのが、産婦人科での内診。娘に内診をさせるのは躊躇する、そんな心配から子供を病院に連れていけない親も多いのではないでしょうか。
生理痛が重い中高生の患者さんへの診察は、内診ではなく、お腹の上から超音波をあてて行います。勿論、痛みは全くありません。性交経験が無ければ内診台に上がる必要もなく、MRIで代用することも可能です。女医さんでなくても安心してお子さんを診察させることが出来ます。
高校生であればホルモン薬での治療も選択肢に。副作用のリスクは大人と同程度。
仮に診察で子宮内膜症などの診断がなかったとしても、生活に支障が出るような重たい生理痛は月経困難症という立派な病気です。その場合、将来子宮内膜症に発展するリスクは生理痛のない子供の2.6倍です。これらの病気は現代の医学では完治させることが出来ない事、また不妊との関係が深いことから、ホルモン治療薬を飲み続けて進行を抑えることが重要になってきます。
ホルモン治療の代表薬である低用量ピル。低用量ピルは避妊薬というイメージが強いかもしれませんが、重い生理痛の軽減や子宮内膜症の予防及び進行予防に広く普及している薬です。
骨に影響を及ぼす可能性が懸念され、日本では中学生には慎重投与が推奨されていますが(一方でWHOでは低用量ピルは初経が来ていれば服用可としています。)、骨成長がほぼ終了した高校生であれば服用可能と考えられています。
服用を始めた当初は一時的な副作用の可能性はありますが、吐気や頭痛等がみられたとしても1週間以内におさまることが殆どです。子供だからといって、より重篤な症状を引き起こすという事はありません。
ホルモン投与というと、通常の薬以上に不安な気持ちになる親は多いかもしれませんが、月経困難症の治療薬として国からきちんと保険適用を受けている薬です。過度に怖がらずに、正しい情報を集めて治療を選択する様にしましょう。
※ごくまれに血栓症などの重篤な副作用を引き起こす可能性がありますので、使用前に必ず医師の説明を聞きましょう。
低用量ピルは慣れてくると非常に便利な薬です。修学旅行や大事な試合、受験が生理と重ならないようにするために、生理日を調整することも可能です。
ピルのメリットを知り、ポジティブに健康と美をコントロールしよう!
日本ではまだ思春期の生理についてのデータがあまりない為、医師によっては高校生にはホルモン治療の必要はないというケースもあるかもしれません。しかし酷い生理痛は放置することで子宮内膜症などに進行する可能性があるため、医師とよく話し合い、なるべく早く治療を開始することが望ましいでしょう。
信頼できる産婦人科はどこで探すの?
医師の名前を検索したり、クリニックのHPの医師の経歴欄を見ると何を専攻していたのかを判断することが出来るのでお勧めです。
「内分泌」「腹腔鏡」「内視鏡」「生殖」などのキーワードが盛り込まれているようであれば、子宮内膜症や月経困難症の治療に関する専門知識が豊富であると判断できます。
また、もともと産科や腫瘍(ガン)を専門にしていても子宮内膜症の勉強をしている先生は多くいます。下記の学会や団体に参加している医師は、子宮内膜症に対する意識が高いと言えるでしょう。
エンドメトリオーシス学会(※エンドメトリオーシスとは英語で子宮内膜症の意味)
子宮内膜症啓発会議
【子宮内膜症の専門医に聞く①】痛みや症状、お医者さんの探し方を徹底解説
またあまり多くはありませんが、思春期外来やアスリート支援についての専門講習を受けている医師がいるクリニックもお勧めです。アスリート支援のという事で、結果として多くの10代の患者を診てきています。アスリートに特化したクリックではなく、基本的には通常の医師が専門講習を受けているケースが殆どですので、アスリートでない高校生も気軽に訪れることが出来ます。
思春期の子供はとてもナイーブ。治療をする上での親の役目とは?
親の役目1:婦人科は恥ずかしい場所ではない、ときちんと伝えてあげましょう
産婦人科は10代からスタートし、女性の生涯の健康をサポートしてくれるとても重要な場所です。しかし残念ながら、「高校生が産婦人科に通う事は恥ずかしい。」と考える人が存在していることも事実です。
まずは親自身がしっかりと産婦人科に通院することの重要性を理解する事。そして子供がきちんと通い続けられる様に、恥ずかしい場所ではないときちんと伝える事。万が一、心のない言葉をかける人がいても、正々堂々とし子供が傷つかないように守ってあげましょう。
親の役目2:学校の先生、体育の先生、部活の先生など、子供を取り巻く大人を味方にしましょう
例え10代であっても、重い生理痛は病気である可能性もあります。このことは医師ですら、最近になってわかってきたことです。学校では、生理は病気ではないので通常通りに生活をするように、と指導される可能性が高いでしょう。
医学の常識が最近変わってきたこと、子供が生理痛で苦しんでいるという事、日常生活に支障がある場合は既に月経困難症という立派な病気であるという事を先生に伝えた上で、通院や体育、日常生活上で対応について相談しましょう。
先生にしっかりと理解してもらえないと、学校と家庭の意見の食い違いで子供が苦しむことになってしまう可能性もあります。逆にしっかりと周囲の大人を味方につけることで、子供自身も治療に前向きに取り組めるようになるでしょう。
親の役割3:子供が話しやすい「大人の味方」を作ってあげましょう。親以外のクッションが必要な場合も
思春期の子供の心はとてもナイーブ。受験や人間関係、部活、先生とのコミュニケーション、自分の見た目についてのコンプレックスなど、生理痛だけでなく様々な問題を多く抱えています。そんな状態の中で、悩み事を親に話してくれない、そんなお子さんは多いのではないでしょうか。
「診察をしていると、痩せ願望が強く親の知らないところで下剤を乱用していた、など生理の問題だけでなく思春期特有の問題に遭遇することは良くある。」と能瀬医師は言います。
子供から無理に話を引き出そうとしても、正面突破が逆効果になってしまう事も多いはず。
その様な時は、子供の親友のお母さんや親せきのお姉さん、部活の先生など、子供が信頼している大人に間に入ってもらい、子供にとって話しやすい「ナナメの関係」を作る事も必要かもしれません。親が正面向いて子供と向き合うより、間にクッションが入る事で問題が円滑に進むケースもあるでしょう。
また、通院時には、あえて診察室から席を外し、子供と医師だけにさせた方が医師とお子さんのコミュニケーションが円滑に行く場合もあります。
大切なことは、お子さんが「味方」と認識している大人とタッグを組み、きちんとお子さんの治療をサポートする事です。
親の役割4:もしも内診が必要になったら。その背景を理解しましょう。
事前にリクエストがなかった場合には内診から始めるケースがあるかもしれません。
その場合には慌てずに、まずは腹部エコーやMRIから始めてもらう様にリクエストすれば対応してくれるはずです。
また、生理痛の場合には月経困難症や子宮内膜症のケースが殆どですが、ごくまれに内診をして更に原因を探っていくことが必要なケースもあります。
突然内診と言われると慌ててしまうケースもあるかもしれません。
その場合には腹部エコーやMRIでどのような所見になっているのか、なぜ内診が必要なのか、という事を質問してみましょう。
内診が必要だからと言って必ずその場で内診をする必要はありません。
一度帰宅し、子供と必要性や心の準備についてしっかりと話し合い、次回内診を受ければよいのです。
大切なことは、親も子供も内診が何故必要なのか理解する事。そして納得して内診を受ける事です。
内診はもう痛くない? 産婦人科検診の怖さを和らげる3つのコツ
内診を受ける決断をするまでに少し時間がかかるかもしれませんが、その場合にはそのままずるずると放置しないよう、次回診察のスケジュール管理はしっかりと行いましょう。
親の役割5:しっかりと薬を飲むよう、フォローしましょう
月経困難症は、放置しておくと子宮内膜症に進行するリスクが高いことは上記で述べた通りです。また、既に子宮内膜症を発症していた場合には、完治方法は現在の医学では見つかっていません。
つまり、重い生理痛を抱えている場合には、長期間にわたって継続してホルモン薬を飲み続ける必要があります。
お子さん自身で毎日の服薬を管理することは難しい為、親が声掛けをすることで病気の進行を防いでいきましょう。
リプロキャリアから産婦人科医へのお願い
「子供の生理痛が重いけど、内診が心配で病院に連れていけない、、、」そう思って悩んでいる親はとても多いのではないでしょうか。また、インターネットの発達した現代では、お子さん自身も産婦人科検診について自分で調べ、恐怖感を持っているのではないかと思います。
どうか一言、病院のHPに「中高生の場合や性交渉の経験がない場合は、内診ではなくお腹に当てる経腹エコーで診察できます。」と掲載してもらえないでしょうか。
生理の始まった少女がきちんとかかりつけの産婦人科医を持ち、予防できる病気は予防する。全ての年代の女性が気軽に産婦人科医にアクセスし、健康を保てる世の中にするため、ご協力をお願いいたします。
※2018年8月8日、親の役割4について内容を追記しています。
監修医師紹介
東京大学医学部附属病院女性診療科・産科、国立スポーツ科学センターメディカルセンター婦人科非常勤 能瀬さやか先生
産婦人科のスポーツドクターとして地区大会~オリンピック選手まで幅広いアスリートに関わる中で、多くの10代の生理の問題に関わる。「10代の生理についての問題は、親のかかわり方が重要。辛い生理痛も、無月経も10代の内から治療を開始することがとても大切です。」
明るく気さくな語り口で、診察に慣れていない未成年の患者さんでも安心して診察を受けることが出来ます。