精液検査に消極的な男性の気持ちを、立ち止まって考えてみた

SHARE

巷でよく聞く、「夫が精液検査に協力してくれない」という声。

不妊治療は二人三脚で進めていくべきものなのに、自分ばかりが一生懸命になっていて焦ってしまう。
夫が他人事のようで、治療に協力的でないことが悲しい。
私はこんなに痛く辛い思いをしているのに、「出すだけ」すら協力してくれないのか。

 

誰だって、本当は夫婦で固い信頼関係を築いて不妊治療に臨みたい。でも、それが出来ずに悩んでいる妻が多いのも事実です。

でも、、、悩んでいるのは本当に妻だけなのでしょうか。今回は少し夫の立場で、考えてみたいと思います。


ある日突然、「主役になれ」と、舞台に引き上げられる夫

 

時代劇では、子供が産めない事で離縁される女性の話が出てきます。古くは「石女(うまずめ)」という言葉があり、大昔から不妊は女性側に問題があるとされていました。

また、薄着をしていると「体を冷やすと子供を産めなくなるわよ」と先生や親から言われた経験を持つ人も多いでしょう。

私たち女性は「不妊になる可能性がある」という事を、歴史からも日常生活からも無意識に学びながら大人になってきているのです。

 

一方、男性はどうでしょうか。

 

不妊は女性特有のもの、という概念の中で成長してきた男性。男性不妊がメディアでじわじわと取り上げられ始めたのは、ここ最近の事です。男性不妊という言葉すら、知らない人もいるかもしれません。

妻からの精液検査の話は、「のんきに舞台を見ていたつもりだったのに、気が付いたら主役として舞台に引き上げられてしまった」状態なのではないでしょうか。

主役なんて突然出来る訳がないのに、どうして自分が突然?と戸惑いで思考停止してしまってもおかしくありません。逃げたいと感じる人もいるでしょう。

 

一方、もう一人の主役である妻は、女として生まれてからの20年以上にわたる知識・そして不妊治療を決意するまでに培った覚悟で既に気持ちは準備万端。イライラしながら、時には悲しそうな顔を浮かべて夫が舞台上で演じ始めるのを待っています。

 

妻は、どんどん先に行ってしまう

 

既に完全にスイッチが入っている妻と、なかなか動こうとしてない夫。そんな夫をみて、妻は悲しいやら情けないやら。

でも、本当にどうやって動いたらよいのかわからないのです。もっと言うと、本当に自分が動く必要があるのか、この不妊治療という人生の大舞台で役を演じる必要が本当にあるのか。まずそれが理解できない。これが夫の正気な気持ちでしょう。

幸か不幸か、不妊検査の初期プロセスは妻だけでも進めることが出来ます。「まずは私だけで、先に出来る検査を受けてくる。」

そして会社を休みながら、23か月に渡って痛みを伴う検査を終え、更に妻だけ先へ先へ行ってしまう。

こうして、夫と妻の意識の差はますます広がっていくのです。

 

「気持ちいいんだからいいでしょ」不妊治療の世界はパワハラとセクハラで溢れている

 

もう一つ。妻が検査を渋る夫に失望する理由は、自分の受ける精神的・肉体的な苦痛に比べて、夫の検査には痛みも苦痛もないという事。むしろ、そこにあるのは採精に伴う快楽だという事。

会社を休んで、卵管造影検査などの気絶しそうな痛みを伴う検査を受けて、それなのにあなたはまだ不妊治療に向き合ってくれないのか。私の経験した痛みに比べたら!

私も辛いのだから、夫も取るに足らない恥ずかしさは味わって当然という、理不尽なパワハラが潜んでいるような気がしてなりません。

そして、快楽を伴うのだからいいではないか、と私たちが思い込んでいる採精。

想像してください。もし妻が逆の立場だったら。

 

男性ばかりが待合室に並んでいる泌尿器科クリニックですが、検査に必要なので奥様にはマスターベーションをして頂きます。オーガズムに達するまでお願いします。

個室で区切られているのでプライバシーは守られています。これは医療なのでご安心ください。 膣分泌液は採取できましたか。お疲れ様です。

それではここで名前を呼ばれるまでお待ちください。待合室は男性ばかりですがお気になさらず。

勿論ご家庭でも検査は出来ます。得られた膣分泌液はご主人に渡していただければ大丈夫です。但しその場合、早朝に来ていただきたいので8時迄にマスターベーションを終わらせて9時には膣分泌液を持ってきてください。(以上、男性看護師からの説明)

 

いくら医療上必要とはいえ、配慮なくパートナーにマスターベーションを強要することはセクハラと言っても過言ではありません。

男性不妊が少しずつクローズアップされたり、不妊治療に理解のある男性が増えてきた現代ですが、残念ながらまだまだ不妊治療は男性に対する配慮がほぼないのが現状です。

私たち女性は男性に対する思いやりを持つべきだと感じますし、クリニックにも男性専用の外来を設置する、待合室を分けるなどの配慮が必要だと感じます。

 

情報が得られない、相談できない、味方がいない。それが今の精液検査

 

あなたは精液検査や男性不妊について、ネットで検索したことはありますか?

私はこの記事を書くにあたり、一通り検索をしてみたのですが、あまりの情報量の少なさに驚きました。いえ、正確には「ある」のですがどれも病院の真面目で格式ばったページばかり。

例えば女性であれば「生理痛 辛い」と検索すると、玉石混合、様々な記事が出てきます。病院が掲載しているページから、個人のブログ、美容サイト内の特集記事、、、。

精液検査については、病院サイト以外では週刊○○の様な、40歳以上のミドルエイジが読むような記事か、精液検査キットなど、検査をする「べき」だ、という一方通行のサイトばかり。「精液検査に抵抗あるよね」「そうそう!」と気楽に感じられる場所が、ネットにすらないのです。

 

カジュアルに入手できる情報がない。戸惑う気持ちを妻に理解してもらえない。会社でも話にくい、、、。

一体誰が、精液検査に戸惑う男性の味方になってあげるのでしょうか。

 

そこにいるのは「妻の気持ちを理解してくれない夫」ではなく、「妻に気持ちを理解してほしい夫」かもしれない。

 

人間は弱い生き物です。だから、怖いことや辛いことがあったときこそ、パートナーには共感してもらいたい。寄り添ってもらいたい。

そして、パートナーだからこそ期待もしてしまうし、思い通りにいかないことがあると大きな落胆をしてしまう。

でもそれはきっと、二人で幸せになりたいからですよね。

私たちが「夫に、自分の気持ちを理解してほしい。寄り添ってほしい」と思っている時、もしかしたらあなたの夫も「妻に、自分の気持ちを理解してほしい。」と思っているかもしれません。

現在の不妊治療は、歴史的な観点・情報量・病院での配慮、全てにおいて男女で圧倒的な差があると言えるでしょう。

不安な気持ちになっているのは、あなたの夫も一緒かもしれない。

是非二人で話し合って、お互いの気持ちに寄り添ってみる。そして二人で不妊治療をしていく。

男性不妊が医学的にも今後クローズアップされる中、そんなサポートが夫には必要かもしれません。

SHARE
タグ: