「辞めずに働く為に、もっと柔軟に。」② 3人子持ちの営業ワーママが駆け抜けた30代。
N子さんの激動の30代を振り返ってきた前編の記事。
見えてきたのは、3回の復職後それぞれ環境が違う組織に配属されながらも、その時々で柔軟にスタンスを変える事で成果を出してきたN子さんの姿です。
後編では、N子さん自身の見えている景色はどのように変わったのか。N子さんの内面の変化についてインタビューをしていきます。
自分の成功から組織の成功へ。変化していった自身の価値観
― 20代と30代で、仕事のやり方ややりがいに、何か変化はありますか?
今しか知らない人からは驚かれますが、20代はとにかく気が強く、自分がMVPを取りたい・自分が良い成績を出してスポットライトを浴びたいという気持ちがとても強かったです。
しかし産み育てながら働いていく中で、他人や組織が成功する事や、一緒に頑張って協業していた案件が上手くいくことに喜びを感じる様になっていました。
― 自分自身が活躍する事に、興味はなくなったのですか?
自分だけが突っ走るのはどうなんだ、自分が働いて生み出す結果は限られているじゃないか、と感じる様になってきました。自分一人が頑張るより、組織へ貢献をして組織としての成功を考えた方が、より多くの成果を生み出せるという事に気づいたのです。
子育てを通じて、自分自身がスポットライトを浴びる事以外にも喜びはある、と実感できたことも理由かもしれません。自分の中でこれと言ったきっかけはないのですが、同じ仕事をしていても「やりがい」を感じるポイントは20代の頃と明らかに違います。
― 今の仕事ではどのような事にやりがいを感じていますか?
今は個人営業の新組織の立ち上げメンバーをしています。会社として新しい分野のビジネスを成功させるために立ち上がった部署なので、この部署を成功させたいという気持ちがあります。営業の手法自体は他部署と変わりませんが、その他にも認知度を上げる為に社内営業を行ったり、協業部署を探したりして、部署として売れる為の体制づくりを行っています。
新組織の立ち上げというとガンガン営業をかけるというイメージがありますが、現在の部署はベテランばかりなので、大人が知力を使いながら売れる仕組みづくりをしていくというスタイルです。年齢と共に営業スタイルは泥臭さや体力勝負から、知力に変化していくのだな、というのが垣間見れてとても勉強になります。
そしてその中で組織が少しずつ大きくなっていくのを実感できることが、私の今のやりがいです。
20代の頃は自力で何とかしようと思っていました。そしてその分うまくいかないことがあると、怒りやすくなったりネガティブな感情に囚われていました。
しかし今は、自分の意にそわないことがあっても目をつぶって相手に任せた方が物事が円滑にすすむ、という事も長い経験の中で理解出来る様になってきました。
20代の頃の目標はMVPを取る事でしたが、今は組織がMVG(最も成果を出した組織として表彰される事)を取る事の方が、嬉しいと感じます。
― としても充実した営業キャリアを歩んでいる様に見えますが、何か後悔などはありますか?
実は20代で部長とキャリア面談をした際に「将来的に管理職を経験した方がいい」と言われたことがずっと心に残っています。
確かに、管理職になれば物事の考え方や世界観など、もっと広い視野を身に着けることが出来ると思います。ただ、まだ下の子が小さいので今管理職になる事は非現実的。
下の子が小学校に上がるときには私は45歳。そのころから管理職を目指すというのは難しいと思っています。若いうちにもう少し頑張って、そこを目指してもよかった。
「その景色は見れないのか。」という淋しさは、少しはあります。
営業を辞めないで続けてこられたのは、仕事よりも自分が大切だから
― 営業職を続けていくことに、大変さは感じませんでしたか?
勿論、色々と葛藤もありました。1人目、2人目の時には両立の不安もありましたし、ワーママのロールモデルがいない事にも悩みました。
当時はワーママ自体の数が少なく、バリバリと成果を出すけど家庭はおざなり、そんな先輩が多かったのも事実です。
ただ、それであれば誰かを参考にせずとも自分自身がなりたい像を描いてそれに近づけばいいんだ、そう思うようになりました。
私が大切にしたいのは、仕事・家庭・自分の3つの時間をバランスよく持つこと。自分の時間に関しては、営業と3人の育児で大変ですが、週に1回のヨガと月に2回のエステは必ず行っています。
そして、そのバランスが保たれないのであれば、仕事を変えてもいいと思っています。でも、この3つをバランスよく保つには、仕事を続けることが最低条件でもあるのです。
なので私は「辞めずに継続する為に、もっと柔軟に働く。」という事を日ごろから心がける様にしています。
ー 編集後記 ー
筆者はN子さんを見ているといつも「ゆるふわ」な、およそ営業職らしくない雰囲気を感じます。そして筆者が一緒に仕事をしていた当時から、あまり目の前の成功や他者からの評価に興味がない様に見えていました。
おそらく、N子さんにとって最も大切なのは人生そのもの。営業職としてキャリアを積む、という近視眼的なことではないのかもしれません。
ただ、だからこそ逆説的に営業職としてのキャリアを積み上げることが出来ているのかもしれない、そう思いました。
営業職というハードな職種につき、1人目復職という苦しい時代を筆者と共に過ごしたN子さん。おそらく当時は、筆者の方が真面目に営業職としてのキャリアについて(時として思いつめながら)考えていた気がします。
もしあの時筆者にN子さんの様な柔軟性や、本当に大切なものは何かを見る視点があれば。
N子さんの10年間に眩しさを感じつつ、改めて豊かな人生とは何か・その中で自分のキャリアをどう位置付けるべきなのかを10年前のN子さんに教えてもらう、そんな取材となりました。