育児休業とは。従業員の仕事と育児の両立支援のために人事・労務がおさえておきたいポイント。
「働き方改革」、「ダイバーシティ推進」、「女性活躍推進」といった文脈でしばしば登場する「育児休業」は、仕事と子育ての両立のために欠かせないものの一つともいえます。他方で、それを定める法律がしばしば改正されることもあり、「育児休業という言葉は知っているけれども、中身はよく理解できていない」という人も多いのではないでしょうか。
そこで今回のコラムでは、育児・介護休業法の内容に触れながら、あらためて育児休業についてご紹介いたします。また、企業の中でも育児休業に関連する業務を担う、人事や労務の方がおさえておきたいポイントについても触れておきます。
育児休業とは
育児休業とは、定められた法律に基づき、申し出により子どもが1歳に達するまで、原則として1回取得することができる休業制度のことです。子供が1歳になるタイミングで育児休業を延長した後、保育所などに入れない場合等には、会社に申し出ることで1歳6ヵ月以降も最長2歳まで育児休業を再延長することもできます。また、これに合わせて、育児休業給付金の給付期間も2歳まで延長することができます。
育児休業は、法律の適用外の育児休暇とは違います。育児休業の場合、法の下で権利が保障され、一定の条件を満たせば、収入減少を補う育児休業給付金の支給制度もあります。
育児・介護休業法
育児休業や介護休業のための休業について定めている法律が育児・介護休業法です。ここでは、この法律について、育児に関連する概要をご紹介します。
育児休業の対象となる人・ならない人
育児休業者の対象となる要件としてまず挙げられるのは、原則として「1歳に満たない子を養育する労働者」であることです。この要件に該当すれば、女性だけではなく男性も育児休業を取得することができます。
また、非正規雇用の労働者に該当するパートやアルバイトといった有期雇用の労働者であっても、申し出時点で次の要件を満たしていれば育児休業を取得可能です。
- 同じ事業主に引続き1年以上雇用されていること
- 子が1歳6か月に達する日までに雇用期間が満了にならず、更新されないことが明らかではないこと
逆にいえば、以上の2つの要件を満たしてない場合、有期雇用の労働者は育児休業の取得対象とはならないということになりますし、日雇い労働者については、そもそも育児休業の対象とはならないという点も覚えておく必要があります。
尚、会社によっては労使協定を結ぶことにより、次の労働者を育児休業取得の対象から除外していることもあります。
- 勤続年数が1年未満の労働者
- 申出の日から1年以内に雇用が終了する予定の労働者
- 週の所定労働日が2日以下の労働者
以上のようなことは、企業にお勤めの人事や労務の方であればご存じの方も多いと思います。ですが、改めて、このような除外の対象となる条件も含め、自社の従業員の内でどれくらいの人が育児休業の対象になるのか、あるいはならないのかを把握しておくことは、自社で働く従業員に対して仕事と育児の両立を支援する施策を検討する際などに重要な視点の一つとなるかもしれません。
2017年、2021年施行の改正法の概要
今も改正が検討されている育児・介護休業法の動向が気になる人事、労務の方も多いかと思いますので、ここでは改めて2021年5月現在の同法の概要をご紹介しておきます。
まず、2017年10月施行の改正育児・介護休業法により、母親だけではなく、父親も育児休業を取りやすくなり、夫婦が協力して育児ができる環境、仕事と育児を両立できるライフスタイルが選択可能になりました。また、子供が保育所に入所できず、退職を余儀なくされないようにも考慮されています。
2017年施行の改正法の内容の特徴は次の3点です。
1.最長2歳まで育児休業の再延長が可能
子供が1歳になるタイミングで育児休業を延長した後、保育園などに入れない場合等には、会社に申し出ることで1歳6ヵ月以降も最長2歳まで育児休業を再延長できるようになりました。これに合わせて、育児休業給付金の給付期間も2歳まで延長することができます。
2.企業が育児休業等に関する制度を知らせる努力義務の創設
従業員やその配偶者が妊娠や出産したことを知った場合に、企業はその従業員に個別に育児休業等に関する制度(育児休業中・休業後の待遇や労働条件等)を知らせる努力義務が設けられました。
3.育児目的の休暇の導入の促進
配偶者出産休暇、ファミリーフレンドリー休暇、入園式や卒園式等の子供の行事への参加のための休暇といった、従業員が未就学児の育児と仕事を両立できるような休暇を設けることを努力義務としました。
さらに、2021年1月に施行された改正育児・介護休業法では、子供の看護休暇や介護休暇を時間単位で取得できるように定められています。この2021年施行の改正法は、いわゆる「中抜け」を認めることを企業に対して強制するものではありませんが、改正された新しい指針には「中抜け」を認めることが挙げられているため、企業としては、「中抜け」ができるような制度を設計することが望ましいといえます。
このように、育児・介護休業法は改正されていくにつれ、企業で働く多くの人が仕事と育児の両立をしやすい環境づくりを実現しようとしていう様子をうかがうことができます。
育児休業の特例
以上に見たような育児休業に加え、育児・介護休業法では次のような特例も設けられています。
育児休業制度
- 子が1歳(一定の場合は、最長で2歳)に達するまで(父母ともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2か月に達するまでの間の1年間<パパ・ママ育休プラス>)、申出により育児休業の取得が可能
- また、産後8週間以内の期間に育児休業を取得した場合は、特別な事情がなくても申出により再度の育児休業取得が可能<パパ休暇>
出典:厚生労働省「イクメンプロジェクト」より
パパ・ママ育休プラスとは
パパ・ママ育休プラスとは、父親の育児休業の取得を促し、夫婦が協力して育児を行うことを目的として、2010年に制定された特例です。
育児休業期間は原則、子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで(母親の育休は、出産~8週間の産後休業を含め、子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで)となっていますが、パパ・ママ育休プラスは、夫婦とも育休を取得することで、子どもが1歳2カ月になるまで延長して休業を取得※できる制度です。一定の条件を満たせば、家庭の事情に合わせて夫婦で別々の期間に取得することもできます。
※育休が取得できる期間自体は、延長前と同じく最大で1年間
パパ休暇とは
パパ休暇とは、育児・介護休業法第5条第2項の規定による育児休業の再取得の特例です。
通常の場合、育児休業の取得は、子供1人につき1回までとされますが、子の出生後に父親が8週間以内に育児休業を取得した場合には、特別な事情がなくても、再度取得できる育児休業のことをいいます。
パパ休暇の要件は次の通りです。
- 子の出生後8週間以内に育児休業を取得していること
- 子の出生後8週間以内に育児休業が終了していること
パパ休暇の育休期間は、出産予定日より前に子どもが誕生した場合は、出産予定日の8週間後まで、出産予定日より後に子どもが誕生した場合は出生日の8週間後までと定められています。
企業の人事・労務がその他におさえておきたいポイント
最後に、以上の他に人事や労務の方が、育児休業に関連しておさえておきたいポイントを簡単にご紹介します。
育児・介護休業法には、子供が1歳あるいは2歳になるまでに育児休業を取得できることの他に、子供が3歳になるまで利用できる制度として「短時間勤務制度」(一日の勤務時間を短縮できる制度)、「所定外労働の制限」(残業を免除する制度)が定められています。
また、小学校に入るまでに利用できる制度として、「子の看護休暇」(病気やケガの世話、予防接種や健康診断の為に取得。1人の場合年5日まで。2人以上の場合年10日まで)、「時間外労働の制限」(1か月で24時間、1年で150時間を超える時間外労働を制限)、「深夜業の制限」(午後10時から午前5時までの労働を免除)といったものも定められています。
さらに、育児休業を申し出した、あるいは取得したことを理由として、解雇、雇い止め、降格といった不利益な取扱いをすることが禁止されている他、育児休業に関するハラスメントの防止対策が義務付けられています。このハラスメントには、パワハラ、セクハラだけではなく、マタハラ、パタハラといったことも含まれますので気になる方はこちらのコラムも参考にしてみてください。(コラム「マタハラとは。原因やケース、改正法を知り、問題や対策を考える。」、「パタハラとは。起きやすい理由や事例。関連法や職場の対策について。」)
こういったことも踏まえつつ、従業員の働きやすい環境づくりに努めることが企業の人事にとっては必要な観点になってくるといえます。
まとめ
厚生労働省による『令和二年版 厚生労働白書』によれば、女性の育児休業取得率は82.2%と高い水準であるのに対して、男性の場合は6.16%と低い水準にあります(平成30年の厚生労働省「雇用均等基本調査」の結果による)。ただし、男性に限っていえば、この調査の20年前に比べると、育休取得率は約14.7倍に増えています。女性に比べて割合こそ低いものの、今後、ますます育児が育児に参加することには期待したいところです。
他方で、同白書によると、女性の第一子出産後の継続就業の割合は53.1%となっており、約半数の女性が出産を期に仕事を辞めてしまうという様子をうかがうことができます。
企業の人事や労務の方は、これまでにご紹介した法律や関連制度の内容をおさえながら、以上のような世の中の状況や自社の従業員の傾向を捉え、自社の従業員の仕事と育児の両立にとって何が最適な施策になるのかを考える必要があるといえるでしょう。
あるいは、自社の女性活躍推進の現状や課題を把握することも、従業員の仕事と育児の両立を支援するためのヒントにつながるのではないでしょうか。
タグ: 女性活躍, 男性育休