男性の育児休業の状況と改正育児・介護休業法の概要。企業がおさえておきたいポイント。
労働力人口が減少する見通しの中、政府が掲げる希望出生率1.8と現実とのギャップはまだ大きいこともあり、今日では仕事と育児を両立しながら意欲をもって生産性高く働くことができる環境整備は企業にとって必要不可欠なことになってきています。
このような背景のもとで、改正育児・介護休業法が2021年6月3日に参議院本会議にて成立しました。そして、この改正法で注目すべき点は、男性の育児休業の取得率を押し上げようとする内容が盛り込まれたことです。
これまで、育児休業を取得したくてもなかなか取得できない男性従業員は少なくはありませんでした。改正法は、この支援となる内容を加えることで男性の育児への参加を促し、女性に偏りがちな育児の負担を軽減させ、夫婦ともに仕事と育児を両立できるようにしていくことが狙いのようです。
そこで、このコラムでは、この法改正の背景となる男性の育児休業の取得の状況、男性の育児休業に関連した諸制度、改正法について企業がおさえておきたいポイントなどについて触れてみたいと思います。
男性の育児休業取得の状況
まず、男性の育児休業の状況を整理しておきます。
厚生労働省による「令和元年度雇用均等基本調査」によれば、2020年度(2019年)の育児休業取得率は、女性が83.0%であるのに対して、男性は7.48% という状態になっています。
厚生労働省が「男性の子育て参加や育児休業取得の促進等」を目的として、2010年に開始した「イクメンプロジェクト」では、男性の育児休業取得率の目標値を2020年には13%、2025年には30%に上げるとしていました。
先の調査結果とイクメンプロジェクトが掲げる2020年目標値の間には5ポイントほどのギャップがあり、さらに2025年までの5年の間に倍以上に男性の育児休業の取得率を上げていくには相当な工夫や仕掛けなどが必要になってくるといえます。そして、今回の改正法はこの工夫や仕掛けの一つだと理解することができます。
ちなみに、上記の調査データでは、産業別や事業所規模別の男性の育児休業の取得の状況もあきらかにされています。
産業別では、目標値を上回っているのは、「鉱業、採石業、砂利採取業」の14.78%、「金融業、保険業」の18.18%、「医療,福祉」の16.81%のみとなっています。最も低い産業は「複合サービス事業」の1.44%となっていて、産業別に取得率のばらつきがあることも理解できます。
事業所規模別では、従業員数500人以上が12.34%と目標値に近づきつつあるようですが、499以下の平均は6.48%と約半分の取得率となっています。規模の小さな企業では、なかなか男性の育児休業取得が進んでいないというのが現状のようです。
2021年6月成立の改正育児・休業法の概要 ~男性の育児休業
男性の育児休業の取得率と目標値の間にギャップがあることは、上記の調査データから具体的に理解いただけたかと思います。次に、このギャップを埋める工夫や仕掛けの一つとして今後施行されていく改正育児・介護休業法の内容について、厚生労働省「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」を参考にしながら確認していきたいと思います。
特に企業がポイントとしておさえておきたいことは、次に紹介する通り「周知・意向確認の義務」、「出生時育休制度の創設」、「大企業における男性育児休業の取得率公表の義務化」の3つです。それぞれ施行の時期が異なりますので、その点も合わせて理解しておくことが重要です。
周知・意向確認の義務
施行時期は2022年4月です。男性が育児休業を取得しやすい社内の環境、雰囲気を作ることを主な目的としています。
企業としては、例えば、育児休業を取得することへの理解を促すようなセミナーや研修の実施や、育児休業の取得を相談できる窓口を設置することなど、工夫や仕掛けを作ることが必要になります。また、それらを通して、育児休業を取得できることを周知したり、育児休業の取得の意向を確認できるようにしたりと、従業員がいつでも育児休業が取りやすい環境を準備することが必要(義務)になってきます。
なお、企業の規模は問われないため、大企業、中小企業が対象となることにも注意が必要です。
出生時育休制度の創設
施行時期は2022年10月に予定されています。これは、子供の出生直後に取得できる柔軟な育児休業の枠組みの創設を目的としています。
この制度の創設により、いわゆる男性産休の仕組みが変わります。具体的には、子供の出産直後の8週間以内に、父親が4週間の育児休業を出産直後や退院時期、里帰りの時期というように最大4週間2回に分けて取得できるようになります。 また、産後8週間を超えて子供が1歳になるまでの間に、最大4週間の育児休業を2回に分けて取得できるため、男性は最大で4回の育児休業が取得可能になります。
さらに、この制度の創設により、育児休業中でも仕事をすることもできるようになるため、より柔軟に仕事と育児の両立がしやすくなるという特徴があります。
出典:厚生労働省「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」
企業としては、上図にまとめてある改正前後の細かな変更点を理解しつつ、従業員に周知し、育児休業の取得を促すことが重要になってきます。
大企業における男性育児休業の取得率公表の義務化
施行時期は2023年4月です。この施行により、常時雇用する労働者の人数が1000人以上の事業主は、男性の育児休業取得率を公表することが義務となります。
先に紹介したような工夫や仕掛けを整えたとしても、実際にそれを実行できているかどうかはまた別の問題といえます。この施行は、実行の状況を可視化することで、それぞれの企業における本気度を世の中に知らせるだけではなく、企業が自らを律することにつなげるという狙いがあるように思えます。
公表された状況は、従業員をはじめとしてさまざまなステークホルダーの注目を集めます。つまり、企業にとっては、積極的に取り組んでいることをアピールすることで、企業としての評価を高めることにもつながるといえるでしょう。
男性の育児休業取得率をあげるために企業がおさえたいポイント
改正法についておさえておきたいポイントについてはご理解いただけたかと思います。そこで、次に、男性の育児休業の取得率をあげるために企業がおさえておきたいポイントについて簡単にお伝えしておきます。
環境づくり
男性が育児に参加することに違和感を覚えさせないような風土づくりをすることがまず重要になってきます。いかに工夫や仕掛けを凝らしても、「そもそも男性が仕事をセーブして育児の時間をつくるなんて」というように思わせてしまうような雰囲気が職場に残っていては、なかなか育児休暇の取得にはつながりません。
また、本人が育児休業を取ることをためらったりしなくても済むように、日頃からコミュニケーションを取りやすい環境をつくることも重要です。例えば、上司との1on1の機会を設けたり、業務のプロセスやタスクの進捗状況を上司や同僚と日ごろから共有したりなど、日ごろのコミュニケーションを活性化させる方法を増やすという方法があります。こういった方法を通して、いつでも相談できる、いつでも仕事を他のメンバーに依頼できる状況をつくるといった具合です。その他に、育児休業をすでに取得したことのある先輩社員に相談できる仕組みを作ることで、復帰後に職場になじめないことへの不安を払拭するような支援をすることも有効です。
本人への支援
今回の改正法のポイントの1つは「育児休業の取得が柔軟になったこと」にあります。そして、柔軟になるからこそ必要になるのが、育児休業を利用しながら仕事と育児を家族でどう実現していくかについて計画を立てることです。育児休業を取得できる回数が増えたからといって、やみくもに休業を取得していては、いざというときに休めないということにつながりかねません。
企業としては、先にもお伝えしたように、改正前後の違いや、いつからそれぞれが施行されるかをおさえたうえで、セミナーや研修などを通じて、従業員への周知を進めることが重要になってきます。また、セミナーや研修などの中で、育児休業を具体的にどのように取得しながら仕事と育児を両立するかを考え、計画書にまとめるようなセッションを設けたり、作成した計画書を家族でレビューできるように設計したりなど、できるだけ仕事と育児の両立が具体的にイメージできるような支援をすることも有効だといえます。
まとめ
2021年6月成立の改正育児・介護休業法は、今後私たちの働き方や働く環境に変化をもたらす要素の一つであることは間違いありません。その要素を正しく理解し、従業員が意欲を持って、生産性高く働くことができるようにすることは、企業の成長にも寄与するといえるでしょう。
環境の変化が激しく、不確実性が高い現在だからこそ、育児も計画的に行うことができるようにすることも、働き続けるうえでの一つの備えになるのではないでしょうか。
育児休業については、このコラムでご紹介したような改正が頻繁に行われるため、育児休業の概要や関連する制度についても関心がある方はこちらの記事も参考にしてみてください。
コラム「育児休業とは。従業員の仕事と育児の両立支援のために人事・労務がおさえておきたいポイント。」
コラム「時短勤務とは。制度の概要や企業がおさえておきたいポイント、事例を紹介。」