アンコンシャス・バイアスとは。概要や事例を理解し、対処法を考える。
今日、あらゆる企業が生産性を向上させ、社員のパフォーマンスを上げることを目指しています。その中で注目されている概念の一つが「アンコンシャス・バイアス」です。認知科学、脳科学、行動経済学等の多様な分野で研究が行われていることからも、実に幅広く注目されていることがわかります。一方で、このように他分野で研究されているからこそ、捉えにくいものだともいえます。
そこで、今回のコラムでは、アンコンシャス・バイアスについて、概要や事例を確認しながら、それがあることで、私たちが働いている職場に起きる影響や対処方法について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
アンコンシャス・バイアスとは
アンコンシャス・バイアスとは、「無意識の偏見」、「無意識の思い込み」と呼ばれるもの。これまで培った経験や価値観で、つい「男性なら/女性なら、〇〇であるべき」、「育児両立期にある人には負荷のかかる仕事は任せられない」といった、偏った見方をしてしまうことをいいます。
こういったバイアスそのものはよくあることかもしれません。ですが、バイアスがかかった状態で発言したり行動したりすることで、相手に不快な思いをさせてしまうこともしばしばあります。また、このような好ましくない影響は、個人だけではなく組織にも広がってしまう懸念があり、場合により職場の雰囲気を悪くしてしまうことやメンバーのモチベーションを低下させてしまうことにもつながりかねません。
そのため、アンコンシャス・バイアスへの対処法を身に着けるトレーニングを行っている企業も少なくはありません。
アンコンシャス・バイアスはだれもが持っている
私たちは、日ごろ多くの情報を処理する際に、効率よく行うためにカテゴライズされた情報を用いることが多いものです。「力仕事を任せるなら男性に」、「女性には管理職を任せられない」というように、職場でも「男性だから」、「女性だから」という理由で仕事が割り振られていくことも少なくはありません。
この場合、なぜ「男性だから」、「女性だから」そのように判断するのかについては、言及されることはなく、つまり無自覚に判断のより所となってしまっているケースがあります。そして、このような判断(情報処理)は、瞬時に誰しもが行ってしまうことです。
つまり、アンコンシャス・バイアスはだれもが持っている可能性があり、それをいかに自覚できるかどうかが重要な分かれ目になってくるといえます。というのも、先にもご紹介したように、バイアスが原因で発言、行動することにより、相手の不快な思いなどにつながりかねないからです。
アンコンシャス・バイアスの事例
アンコンシャス・バイアスといってもなかなかつかみどころがないかもしれません。そこでいくつか代表的な例を紹介しておきます。
正常性バイアス
危機的な状況でも、日常の延長のように捉えてしまい、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価する。状況に応じた正確な判断ができなくなる。
「会社全体の業績が悪くても、自分はリストラされない」
集団同調性バイアス
自分が所属する集団の中で主流になっている価値観、考え方などに同調する。不適切な行為が常態化している組織などで歯止めが効かなくなる。
「多少の違反行為でも、みんながやっているから大丈夫」
ステレオタイプバイアス
年齢、性別、職業などに対する固定観念。適切な評価や処遇ができなくなる可能性がある。
「シニア人材はパソコンが苦手」
確証バイアス
自身の仮説、信念を検証する際に、有利な情報ばかりを集め、反証するための情報を無視したりする。間違った意思決定につながる可能性がある。
「転職回数が多い人はすぐ辞める」
ハロー効果
相手を評価する際に、目立った特徴などだけに注目し、偏った判断をしてしまう。誤った処遇や採用のミスマッチにつながる可能性がある。
「〇〇大学出身の新卒は優秀」
インポスター症候群
自分の成功を客観的に示す証拠があっても、成功を過小評価、たまたま起こったことと評価する。新しいことへの挑戦を妨げる。
「自分の成功はたまたま運が良かっただけ」
インポスター症候群については、こちらのコラムで詳細をご紹介しています。気になる方はご確認ください。コラム「インポスター症候群とは。経験しやすい人の傾向や原因、キャリア開発の観点で防止のためのステップを解説。」
アンコンシャス・バイアスが組織にはびこるとどうなる
上記の例で紹介したように、職場にアンコンシャス・バイアスがはびこると、様々な弊害が生まれる可能性が高くなります。例えば、管理職がアンコンシャス・バイアスを持ってしまうことにより、部下が新たな挑戦の機会に恵まれなくなったり、適切な評価や処遇が受けられなくなるといったことが考えられます。
場合により、上司と部下の間の関係が悪くなったり、コミュニケーション不全が起きてしまったりというように職場の雰囲気の悪化や、社員のモチベーションの低下にもつながる恐れがあります。
今日、最も注意すべきことの一つでもある「ハラスメント」についても懸念される点があります。上司によるパワハラが確認出来たとしても、集団同調性バイアスがはたらいてしまうことで、ハラスメントと思われる言動や行動をその組織の中では当たり前のこととして受け止めてしまうといったようなことも起こり得ます。もちろん、ハラスメントには、パワハラだけではなく、マタハラ、パタハラといった育児に関するハラスメントも含まれます。
その他に、採用する人材に偏りが出たり、新たな役割を与えられる部下に偏りが出てしまう場合、類似性のある人材ばかりが集まってしまい、新しい物事が結合しなくなりイノベーションが起きにくい組織になってしまうことも否めません。
アンコンシャス・バイアスに対処するには
アンコンシャス・バイアスは、その名の通り「無意識」のままに行動や言動に影響してしまうものです。したがって、この無意識に起きてしまうことに対して、気づくことが重要になってきます。
例えば、IATテスト等を利用し、自分がどのような偏見を持っているのかを知ることで、どのようなときに自分が偏った行動や言動をする可能性があるのかといった傾向を知り、予め適切に対処できる状態にしておくというのも有効です。
あるいは、こういったテストを組織全体で実施することで、自身の職場にどのような偏った認知が起きるのかという傾向を人事や労務の担当者が把握することで、傾向に合わせてダイバーシティ、ハラスメントといったテーマの研修やセミナーを企画・実施するといった方法も考えられます。
このように、個人レベルや組織レベルで様々な取り組みを進めていくことで、職場の風土やモチベーションを改善し、生産性高く、高いパフォーマンスですべての社員が働くことができるようにすることは、今日の企業に課せられている経営課題の一つといってもよいでしょう。
まとめ
私たちは、育った家庭の環境や学校での経験、仕事についてからの経験などにより様々な価値観を身に着けます。そして、身に着けた価値観は良い結果に結びつくことも、悪い結果に結びつくこともあり得ます。
今回紹介したアンコンシャス・バイアスは、あることそのものは必ずしも悪というわけではなく、その偏見の結果、相手にとって好ましくない影響をおよぼしてしまったときに悪とみなされてしまうものです。したがって、その偏見が起きにくいようにいかに備えていくかということが重要なことになってきます。
皆さんの職場でもし、人間関係に違和感を覚えたら、一度立ち止まってその人たちがどのような背景で行動したり、発言をしているのかその人の立場になってみて考えてみるのもよいでしょう。もしかしたら、上司は「上司らしく振舞わなければならない」という信念のもとで、役割をひたすら遂行しようとしているだけかもしれません。そうだとすると、その役割とはいったい何なのかを理解してみることで、違和感をおぼえた人間関係のズレにも気づくきっかけが得られる可能性もあります。
こういった、日ごろの出来事を一つひとつ観察していくことも、偏見を理解し、対処することにつながっていくのではないでしょうか。
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