コラム

チームコーチが考える:ワンチームは桃源郷?危機感の時代から不安への時代の処方箋

みなさんは3年前と今の時代を比較して、どのようなことを感じますか?私は、「この3年で世界は大きく変化したな」と感じています。今日のコラムでは時代が「危機感」から「不安」に変化していく中での、自分なりの処方箋を書いてみたいと思います。


先日、たまたま見かけたトヨタイムズの記事が、まさに今の時代を表していると感じました。

自動車産業は100年に1度の大変革期と言われて久しいですが、昨今は私たちの想像を超えるスピードで変化をしており、職場のメンバーもその状況は認識しつつも、厳しい職場運営に追われる中で、危機感というより不安感の方が強く、とにかく目の前の仕事を必死にやり切っている状態の職場があるというのも現実です。引用:トヨタイムズ トヨタに潜むリスクとは? 未来への投資に向けて労使が議論より

アメリカでは新政権が誕生し、これまでの「普通」では考えられないような変化が起こっています。円安も、少子高齢化も、それに伴う様々な環境変化も、加速度的に進んでいます。

濃度は人それぞれですが、「押し流されている」そんな気持ちになる人も多いのではないでしょうか。少なくとも私は、大きな変化の中で押し流されていく不安を感じている一人です。

危機感はエネルギーを生み出す。不安はエネルギーを奪う。

トヨタイムズを読みながら、新卒で入った会社のことを思い出していました。会社の業績が悪化していき、遂には販売会社との統合の話が持ち上がりました。その全社説明会。ある先輩が「仕方ないか」と最後にボソッと言ったことが今でも頭の中に残っています。

若かったこともあり、その時私が感じたのは怒りでした。まだまだ出来ることはある。どうして戦わないのか。

ですが今ならわかります。自分の力ではどうしようもない時、人は何もできなくなってしまうということが。

危機感は、その状況を打破するためのエネルギーになる。一方で、自分で変えることの出来ない不安感は、人を無力にします。

貢献や自己実現から、自己防衛の時代へ

20代~30代前半向けに研修をすると、顕著な傾向として、お金に関心が高いことが伺えます。キャリア研修では、「まずはお金を稼ぎたい」と発言する人が目に見えて増加しました。お金お金!というよりも、まずは自分の足元を何とかして固めたい、自己防衛しなければという心理があるように感じます。

マズローの5段階欲求という有名な説がありますが、今の若手はそもそもお金や、安定した明日、という「安全欲求」が満たされていないのではないでしょうか。

アメリカの心理学者、マズローの欲求5段階説。下位にある欲求が満たされていない状態で、より上位の欲求に目を向けることは出来ない。

そして、危機感の時代から不安の時代に差し掛かる中で、もしかしたら、40代以降の人々にとっても徐々に安全欲求が満たされないトランジションが起こりつつあるのかもしれません。

「誰かの為に貢献する」「自分の夢を実現する」よりも「まずは防衛せねば」のほうが優先順位が高くなるのは、時代の変化の中で、当たり前のことかもしれません。

それでも私たちが、貢献や自己実現を追求していくために

世の中の変化の中で、人がより自己防衛に軸足を置きつつあるのは自然なことだと感じます。一方で、「自己実現は手放したくない」「貢献の気持ちを持ち続けたい」と思うのも自然なことだと思います。

では、どうしたら安全欲求を満たしつつ、より高次の欲求を追い求めることが出来るのでしょうか。

そのカギは、安直かもしれませんが、やはり対話と連帯にあると思っています。

「共に考えること」「(賛成反対は横に置き)みんなが発言し、みんなが受け止め合うこと」この二つなくして、この自己防衛の時代にどう貢献や自己実現を説くのか。簡単にハンドルを取られてしまう今の時代だからこそ、私自身は改めてここに足を踏みしめつづけることが大切だなぁと、改めて感じています。

より良い世の中を望むともしびが消えることはない

最後に、私の大好きなレ・ミゼラブルのご紹介をしたいと思います。

悪政と貧困が続くフランスで、自分の良識を貫く人、混乱の中で命を落とす人、したたかに泥水をすすって生き抜く人、様々な人たちが描かれています。

映画版では、エンディングで小さな小さな声で「民衆の歌」が流れ始めます。私はそこからいつも、「どんなに厳しい状況にあっても、より良い世界を望む人々のともしびは絶えることがない」というメッセージを受け取っています。

働く全ての人達のともしびは絶えることがありません。そして、そのともしびを守り続けることが、不安の時代を生きる今の自分の役割なのかなぁ、と少し真面目に考えています。


リプロキャリアでは、「組織の葛藤を、創造の力に」をモットーとし、様々な企業様の組織開発に向き合って参りました。「組織開発の壁打ちがしたい」「自社にどのような可能性や伸びしろがあるのか知りたい」と考えるお客様、是非お気軽にお問合せ下さいませ。

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